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平成22年8月(2010 AUGUST)
リレーエッセー
とよなか ゆめ・まち・ひと

原  点
鈴村 健一
15歳から19歳までたった4年間しか住んでいなかった豊中。でも、僕を変えてくれた大切なまちです。
中学3年生のときに北九州から引っ越してきた僕は、登校初日に「関西弁」の洗礼を受けます。今まで聞いてきた言語とあまりに違うその攻撃的な感じが当時の僕には恐怖でした。転校生の僕にクラスメートたちは関西人らしい友好的な距離の縮め方で接してくれましたが、僕がしゃべればみんなが笑っているように見える。たかがアクセントの違いが、子ども時代の僕には重く辛いものでした。いわゆるいじめというものではありません。誰でも気さくに声をかける関西弁のクラスメートと、ジェスチャーで答えるしゃべらない転校生。ただそんな関係性だったのです。
ほとんどしゃべることなく過ごした中学最後の年。冬が来て高校受験の時期になり、僕は先に受けた私立高校の受験に失敗しました。ひとり失意のどん底で将来を案じて途方にくれるばかり。そんなときでした。家のチャイムが鳴り、母親が僕を呼ぶのです。「友達が来てる」。そんなはずはない。家に誰かが遊びに来たことなどありません。しかし、玄関先には15人はいると思われるクラスメートの姿。聞けば、担任の先生に住所を聞き、みんなで元気づけに来たと。「お前やったら大丈夫」、「公立に受かったらそれでええやん」。関西弁のもつ独特の温かみというのをこのとき初めて感じました。思い返せば「こんなベタな展開も関西らしいな」と笑ってしまいます。
公立高校は無事、少路高校に合格。これまたベタな「高校デビュー」で関西弁もしゃべるようになりましたが、僕の拙い関西弁に突っ込みを入れる人はひとりもいませんでした。今になって思えば、僕が勝手に遮断していただけで、すでに受け入れられていたのです。
あのしゃべらない転校生は、声優になりました。今ではラジオ大阪で8年続く番組を受け持つパーソナリティーでもあります。豊中というまちで学んだ、人と接することの難しさ、楽しさを胸に、僕はこれからもこの仕事を続けていきます。

鈴村 健一(すずむら けんいち)
声優
1974年、新潟県生まれ。市立第二中学校、府立少路高校卒業。1995年声優デビュー。「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」で主人公を演じるなど多数の作品に出演しているほか、ラジオなど多方面で活躍中。

▼奇数月は「なんでも調査隊」、偶数月は「リレーエッセー」を掲載しています