ひゅうまん通信 子どもたちの心に寄り添って 〜不登校を考える〜  不登校とは、学校を年間30日以上欠席し、何らかの心理的、情緒的、身体的理由などで登校しない、したくてもできない状況にあること。  少年文化館では、臨床心理士や創造活動スタッフ、学生ボランティアなどが不登校やその傾向がある子どもたちに精神面や学習の支援を行っています。  今回は、同館で支援をする学生ボランティアの体験談から、不登校について考えてみましょう。             (少年文化館) 自身の経験を生かして支える側に  「私も不登校を経験した一人です。だからこそ、同じような状況の児童・生徒たちに共感できる部分があります」と話すのは庄内少年文化館で学生ボランティアとして活動する桑村彰宏さん(28歳)。  「私が不登校になったとき、親は少年文化館に相談し、私は少年文化館の活動に参加することになりました」。  当時から少年文化館は、曜日ごとに学習や運動、美術・工芸などのプログラムに沿った活動を通して支援を行っていました。「当時の私は誰かに話し掛けられたことには答えましたが、自分から話すことが苦手で。そんな私に、まるで本当の兄のようにたくさん話し掛けてくれたのが学生ボランティアさんでした」。桑村さんは学生ボランティアと何気ない会話をしているうちに人と自然に話せるようになり、精神的に楽になったそうです。「今度は私がここに通う子どもたちにたくさん話し掛ける側になって、子どもたちの心に寄り添いたい」と、7年前から支援のボランティアを始めました。 素直な気持ちを受け止めたい  外出できない児童・生徒には、決まった日時に家庭訪問をします。「ある生徒は、あいさつだけで終わってしまうことが数回続きました。カードゲームをしても、一言も話してくれません。でも、その生徒が話してくれるまで根気強く一緒に過ごしました。ある日、映画を観るのが好きだと話してくれたので、家で2時間ほどの映画を観ることに。今まで一緒にいる時間は長くても1時間。私と一緒にいることがつらくなっていないか気を配りながら、最後まで映画を観ました。人との関わりを避けていた生徒が、2時間も私と一緒に過ごすことができたんです」。すると次の家庭訪問で大きな変化が起きました。  「桑村さんと映画を一緒に観られて、また誰かと関わってみようと思った」と言ってくれたのです。それから徐々に生徒から会話することが増え、感情も少しずつ出してくれるように。その後、少年文化館のグループ活動に参加できるようになり、学校と協力して登校に挑戦しました。現在は進学し、学校生活を楽しんでいます。  「一緒に同じ時間を過ごす誰かがいることが大切だと考えています。そして、本人がどうしたいのかを聞き、思いを感じ取りながら接することで少しずつ信頼してもらえたのだと思います。かつての自分を思い返しながら、子どもたちの素直な気持ちを受け止められる存在になりたいです」と桑村さん。児童・生徒たちの心に寄り添う活動を続けています。 子どもたちを一緒に見守る  学校へ行きづらくなった原因は複雑で人それぞれ。人間関係や家庭環境などさまざまな要因が重なって、不登校になることもあります。「子ども同士の関係だけでなく、保護者や学校の先生など周囲の大人たちとの関わり方につらくなってしまう児童・生徒もいます」と話すのは、少年文化館の設立当初から児童・生徒たちを支援している臨床心理士の伊藤由記子さん。  「子どもたちからすれば、大人は評価や指示をする存在。大人に気を使い過ぎて、自分の意見を言えなくなってしまう子どももいます。少年文化館では大人よりも年齢が近い学生ボランティアと一緒に時間を過ごし、彼らと兄弟姉妹のように気を使わず会話できる関係づくりをめざしています」。自分を理解して受け止めてくれる存在ができると、子どもたちが意思表示しやすくなり、心を開くきっかけにもなると伊藤さんは話します。  「子どもにとって学校は社会そのもの。保護者は登校できないことで焦りを感じてしまうかもしれませんが、迷いや悩みに寄り添ってアドバイスをしても、最後にどうするかを決めるのは本人です。私たちの支援の目標は、“学校に登校する” ことだけではなく、社会的に自立し、豊かな人生を送ってもらうことです。学校生活は長い人生のほんの一部。子どもたちがどうしたいのか、何ができるのか一緒に見守りましょう」。 少年文化館のある日のグループ活動 タイムスケジュール 9:30  朝のつどい 10:00 クッキング 12:00 昼 食 13:00 学習(小学生)     美術・工芸か学習(中学生) 15:00 ホームルーム 相談してみませんか 不登校などの相談 施設名/庄内少年文化館(庄内栄町)電話6336-6371 日時/火曜〜日曜日(祝日を除く)9時〜17時 施設名/千里少年文化館(新千里西町)電話6831-5300 日時/火曜〜金曜日(祝日を除く)9時〜17時 夏休みが終わって学校に行くのがつらいと思ったら…。 このほか、子育てや教育について相談できる窓口があります。 詳しくは42・43 ページをご覧ください。 写真キャプション:少年文化館に通う児童・生徒たちが活動プログラムで制作した作品 学生ボランティア 桑村彰宏さん 少年文化館を巣立った児童・生徒たちの作品。 左は一人1輪ずつ花を描いた合作 少年文化館 臨床心理士 伊藤由記子さん