主な疾患:乳がんについて
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更新日:2020年2月12日
乳房には、母乳をつくる小葉と、母乳を乳頭まで運ぶ乳管で構成される乳腺組織があります。乳がんは、小葉または乳管にある細胞から発生します。がん細胞が小葉や乳管内にとどまっている段階であれば非浸潤がん、小葉や乳管の外に出てくると浸潤がんといいます。
原因
乳がんになりやすいリスク因子は主に以下の通りです。
- エストロゲンとの関連
初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産経験がない、更年期障害の治療で長期間ホルモン補充療法を受けている - 生活習慣との関連
閉経後の肥満、飲酒、喫煙 - 遺伝との関連
血縁者に乳がんになった人がいる
診断
視触診、マンモグラフィ検査、超音波検査などで乳房にしこり等の異常がないかを検査します。しこりがあれば、細胞診(細い針を刺して細胞を採取する方法)や組織診(やや太めの針を刺して組織の一部を採取する方法)を行うことで、乳がんかそれ以外の病変かを診断することができます。乳がんと診断されたら、MRI検査で乳房内のがんの広がりを調べたり、CT検査や骨シンチグラフィなどで全身の転移を調べ、病気の進行具合を判断します。
乳がんの病期(ステージ)は以下の様に分類します。
ステージ0
非浸潤がん(がん細胞が、乳管や小葉内にとどまっている段階)
ステージ1~3
浸潤がんであるが、遠隔転移(乳房から離れた臓器への転移)のない状態。しこりの大きさや周囲のリンパ節の転移の状況によって、1~3までの段階に分けられます。
ステージ4
遠隔転移を認める状態
病期0 | 非浸潤がん: 乳がんが発生した乳管や小葉の中にとどまっている |
---|---|
病期1 | しこりが2センチメートル以下で、わきの下のリンパ節に転移なし |
病期2 | A
B
|
病期3 | A
B
C
|
病期4 | しこりの大きさを問わず、乳房から離れたところに転移している |
治療
遠隔転移がない乳がんは治癒をめざして治療を行います。乳がんの治療は、手術や放射線療法などの局所治療と、ホルモン剤・抗がん剤などを使用した薬物療法による全身治療があります。乳がんの進行度、がんの性質(薬物療法への反応性など)、患者さんの希望などを考慮して、適切な組み合わせを検討します。
ここでは手術について説明します。
乳癌治療の大まかな流れ(病期1期~3期の患者さんの場合)
- 治療計画を立てる
病状を確認
がんの大きさと乳房内の広がり
リンパ節転移の程度
他の臓器への転移の有無
がんの性質(薬への反応性)
患者さんの希望 - 手術前の治療 ※行わない場合もあります
術前薬物治療
化学療法(抗がん剤治療)
抗HER2療法
(ホルモン療法) - 手術
乳房に対する手術 ※希望に応じて乳房再建手術を検討
乳房温存手術
乳房切除手術
わきの下のリンパ節に対する手術腋窩 リンパ節郭清
センチネルリンパ節生検 - 手術後の治療 ※行わない場合もあります
放射線治療
術後薬物療法
ホルモン療法
抗HER2療法
化学療法 - 経過観察
乳房部分切除術、乳房全切除術
標準的な手術の方法としては以下の二つの術式があります。また、センチネルリンパ節生検や乳房再建を行うこともあります。
乳房部分切除術(乳房温存術)
安全域として病巣周囲の正常乳腺を少し含めて部分的に切除する方法です。術後も乳房のふくらみが保たれるのがメリットです。適応となるのは、患者さんの乳房の大きさにもよりますが、がんの大きさが3センチメートル以下であること、マンモグラフィや超音波検査やMRIなどの画像検査で、がんが広範囲に広がっていないことが確認できる場合です。手術で病巣を切除した後に、温存した乳房内でのがんの再発を予防するために、原則、放射線療法を受けることが必要です。
乳房全切除術
乳頭およびがん直上の皮膚を含めて乳腺を全て摘出します。以前は大胸筋などの筋肉も一緒に切除していましたが、近年では筋肉を温存するのが一般的です。乳房のふくらみは失いますが、乳房の再建手術を行えば、ふくらみを取り戻すことができます。がんが大きい場合や広範囲に広がっている場合など乳房部分切除術が行えないときは適応となります。
センチネルリンパ節生検について
乳がんは
乳房再建について
手術によって失われた乳房のふくらみを、形成外科の技術によって取り戻す方法です。乳房再建は大きく分けて、自家組織による方法と人工乳房(インプラント)による方法があります。自家組織による方法では、患者さんの体の一部(おなかや背中の脂肪や筋肉など)を胸に移植します。また、人工乳房による方法では、最初にエキスパンダーという皮膚を伸ばす袋を胸の筋肉の下に挿入し、袋を徐々に膨らますことで皮膚を伸ばし乳房のふくらみを作ります。その後にシリコンでできた人工乳房に入れ替えます。再建手術は形成外科の技術を必要としますので、患者さんが希望される場合、形成外科のある施設へ紹介しています。
術後経過と通院
通常手術前日に入院し、平均的な入院期間は1週間です。入院中に術後の肩の運動障害を防止するために、リハビリテーションの指導をしています。薬物治療や放射線治療は通常入院の必要はありませんので、退院後に通院で行っています。薬物治療には、手術前に行う術前薬物治療もあります。退院後の定期診察は、地域の診療所と連携して行う地域連携も積極的に取り入れています。退院後の日常生活は、手術前とほぼ同様に行えます。仕事と治療の両立も可能ですが、病状や治療内容によって個別に検討する必要があります。また、治療によっては卵巣機能に影響を与えますので、妊娠・出産を検討されている場合は、治療開始前に医師と相談が必要です。