第十回 市長が聴く「フィッシュ・バイオテック株式会社社長 右田孝宣さんに聴く」
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更新日:2023年5月19日
実施日
令和4年(2022年)10月25日(火曜)
はじめに
豊中市では、とよなか起業・チャレンジセンターを豊中商工会議所と連携し運営するなど、起業をめざす事業者への支援を進めています。
そこで今回は、豊中市の庄内でサバの陸上養殖を行っているフィッシュ・バイオテック株式会社の右田社長に起業にまつわるお話をお聞きします。
対談要旨
サバの陸上養殖
長内市長
右田社長にぜひお聞きしたかったのですが、世の中にはいろんな魚がある中、なぜサバを選ばれたのでしょうか。
右田社長
15年前、妻と2人で小さな居酒屋を経営していました。その時、妻が言った、「あなたが作る料理で唯一美味しいのは鯖寿司なので、サバ一本で頑張ったら」の一言で起業を決心しました。
その後、鯖寿司の製造販売から始めて、8年前に鯖料理だけを扱った鯖料理専門店SABARをオープンしました。
長内市長
私も魚の中でもサバが大好きです。
そこから陸上養殖を始められたのはどのようなきっかけからなのでしょうか。
右田社長
私たちは大きなサバを「とろさば」としてブランディングしていますが、この「とろさば」が、年々獲れなくなっています。そこに危機を感じ、自分たちの手で最高のサバを育てようと、2020年1月に、和歌山県の串本で、サバを卵から孵化させる完全養殖をスタートさせました。
海面養殖のリスクは、完全に解決することができません。赤潮や台風、高水温はある程度予測できますが、津波、海底噴火、寄生虫(アニサキス)に関しては、予測もできないし当然解決もできない。特に、地球温暖化による高水温が深刻で、このまま温度上昇が進めば、日本で養殖されている魚は高水温に弱いので、ほとんどの魚が養殖されなくなると言われています。
天然魚の漁業も深刻で、この30年間で漁獲量が半分以下、漁業従事者は50年前から3分の1になっています。サバの自給率も、この50年間で59%まで落ちてきています。
長内市長
海面での養殖ではなく、陸上での完全養殖というのは新しいですね。
サバはアニサキスなどもあり、あまり生で食べる習慣はなかったと思いますが、完全養殖だとどうなのでしょうか。
右田社長
陸上養殖では、海洋環境の問題、アニサキスや感染症の問題などがすべて解決できます。特に労働環境に関しては、100歳まで働ける漁業が実現し、高齢者でも障害者でも働けます。
私たちのビジネスモデルは、サバの陸上養殖のプラットフォーム開発です。種苗(養殖用の稚魚や卵)、餌、水槽設計、育成システム、これに保険も含め、すべてを一気通貫、パッケージ化します。将来的には、サバで成功したあとには、他の魚種へも展開していこうと考えています。
長内市長
アニサキスなど寄生虫の問題だけでなく100歳まで働ける漁業というのはいいですね。漁業というと、体が資本というイメージもありますが、高齢者や障害があっても働けるという環境は、特に超高齢社会を迎えている人生100年時代の日本において必要となってくると思います。
私は、サバと言えば、やはり、しめ鯖かバッテラ、あるいは塩鯖が思い浮かびます。生で食べるというのは、やはりこれまでにイメージがないため、食べてみて美味しいとなるまでが難しそうですね。SABARではどれくらいメニューの種類があるのでしょうか。
右田社長
私たちが経営している鯖料理専門店SABARではレシピが500種類くらいあります。しかし、生で食べるメニューは5種類くらいしかありません。サバを生で食べる文化がないので、どう興味をもってもらえるかが課題です。そもそも、海で育っているサバがいるのに、どうして陸上養殖なのとまずは思われてしまう。でも、今はその魚が海で育っていません。サンマも日本鮭も獲れていません。天然資源がどんどん獲れなくなって、養殖に関しても高水温で獲れない状況です。消費者は当たり前のように魚を食べられると思っているが、食べられなくなる状況がすぐそこまで来ています。
現在の取組み
長内市長
現在はどのような取り組みをされているのでしょうか。
右田社長
私たちがプロデュースしたブランドとして、JR西日本さんが「お嬢サバ」というブランドで陸上養殖を行っています。また、福井県小浜市が鯖街道の入り口ということもあり、一緒に「鯖、復活」プロジェクトとして、「よっぱらいサバ」をブランディングし、小浜市内にも店舗を展開しています。さらに、「海なし県」埼玉の日帰り入浴施設と一緒に、「温泉サバ」というブランドを作ったところ、テレビ番組にも取り上げられ、陸上養殖の取組みが注目されてきています。
また、私たちの育てるサバの餌として、捨てられている魚(未利用魚)を使用しています。そして、ZOZO前社長の前澤友作氏が設立した前澤ファンドにおいても、一次産業が4,330社ある中で唯一採択していただきました。
長内市長
私もテレビで見ました。お嬢サバや温泉サバ、名前のつけかたがとても面白いですね。また、サバの餌にも捨てられる魚を使用されるなど、環境に配慮した様々な取り組みをされているのですね。前澤ファンドに選ばれたことも納得です。
海のない豊中からサバを全国へ
長内市長
様々な取組みを進めておられる右田社長ですが、今後、この豊中ではどのような展開を考えておられますか。
右田社長
海がない豊中から、サバを全国に発信できれば面白いなと思っています。まずは、人が集まる養殖場づくりを豊中で実現していきたいですね。施設内に養殖場とレストランがあり、養殖場を見学し、サバを見ていただいたあと、レストランでプロジェクションマッピングを使った水族館のような雰囲気で、サバの卵から大きくなるまでの生態系を見てもらいます。そして、実際にサバに触れて、それを食へとつなぎ学んでいけるようにしたいです。
長内市長
海のない豊中から全国にサバを発信というのは、逆転の発想ですね。豊中市は空港のあるまちでもありますし、飛行機の音を聞きながら育ったサバに羽が生えて全国に広がっていく。でもそれだとトビウオですね(笑)
右田社長
飛行機の音を聞いて育つサバ、豊中ならではで、とても面白いですね(笑)
豊中には、豊中レモンや千里のたけのこなど、地域の品があります。それらとサバを融合させた「食」を、プロジェクションマッピングを通して提案する施設を考えています。地域を感じながら、豊中を学んでいただければと思います。作るだけの養殖場ではなく、見学施設として学んでもらい、食の体験では地域の食材とあわせて豊中の魅力を発信していきたいです。
長内市長
漁業の体験や学びのできる場は、子どもたちの食育にもつながりそうですね。
右田社長
そうですね、子どもたちには漁業を身近に感じてもらいたいです。陸の上でも魚を育てられるという未来の食育の形ですね。また、魅力のある施設が豊中に誕生することによって、多くの方々が見に来ていただけますし、海なし県の豊中でサバが生まれ、豊中で育つ、新しい豊中の海産名物としたいです。ICTで管理をしながら、高齢者でも障害者でも誰もができる仕事で、雇用の創出が見込めることも魅力の一つだと思います。そして、低迷する一次産業の新たなロールモデルになればと思っています。
長内市長
海のない豊中の名物がサバというのが面白いですね。今後はどのようなスケジュールで展開をお考えですか。
右田社長
今後のスケジュールとしては、2023年の夏休み頃をめどに、豊中でアンテナショップをオープンしたいと思っています。これによって、陸上養殖からの雇用、産業創出、そして市民参加型のSDGsの推進も実現したいと思っています。
長内市長
これまでは、海に行き、海のものを獲り、加工して、そして販路を広げることがビジネスモデルでした。右田社長の場合はそうではなく、海のないところに海のものを作り、生産と消費を直結させるという新しいビジネスモデル、とても面白い発想ですね。右田社長の描く新しい施設が、豊中の新たな名所になればと思います。
豊中がより魅力的なまちになるために
長内市長
豊中には、商工会議所と連携して運営する起業・チャレンジセンターを設置し、業種や業歴にとらわれることなく地域の事業者を支援しています。
起業する上で必要なことや、行政に求めることなどがあればお教えください。
右田社長
大手企業さんが入ってくると、なかなか参入できず、水産ベンチャーの若い人たちの一次産業をめざそうという芽を摘んでしまう。そうならないような、新しい発想が必要だと思います。
これから起業する人たちに希望を持ってもらうためにも、私たちが陸上養殖のプラットフォーマーのポジションを掴まなくてはいけないと思っています。来年6月にはプロトタイプをリリースすることを発表していますが、最初のショールームは自分たちでやろうと考えています。まずは小規模で、丁寧に接客し、丁寧に施設案内し、丁寧に学んでもらえるものを、自分たちのお膝元であるこの豊中で作りたいですね。全国からこの豊中に視察がきて、自分たちのまちでも再現したいという声が出てくるようになってほしいです。ただ、技術革新はすぐにできるものではないですし、行政からの支援体制も必要となってきます。私たち民間だけではなく、行政と一緒になって、協力し合って、価値あるものを生み出していきたいと思っています。
長内市長
そうですね、右田社長の場合は、海のないところで海のものを生産するという逆転の発想が、ビジネスモデルの土台となっています。豊中市で、新しいことをめざそうとする起業家の皆さんにも、こんな発想があるのかとぜひインスピレーションを感じてもらいたいですね。豊中市としても、チャレンジ事業補助金など、市内で頑張ろうとする起業家の皆さんを応援する施策をどんどん考えていきます。豊中がより魅力的なまちとなるよう、行政としてできることを進めていきます。ぜひこの豊中で、右田社長に続く起業家が増えることを期待しています。
本日はどうもありがとうございました。
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